TIMEDOMAIN
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 「速報先見経済2002.1月第2週・第3週合併号」
オンリーワン企業にみる戦略と執念

小さな大企業13

宇恵義人 
(株)クリエイト・U代表取締役 

既成概念を越えた癒しの音を提供する

(株)タイムドメインのオーディオシステム


研究開発には支援者との運命的な出会いがあった
 2001年4月、パリで開かれたオーディオショー。なんの変哲もないパイプ型のスピーカー(直径9センチ、高さ108.5センチ)と手のひらに乗る卵形のアンプ、既成の概念を打ち破る(株)タイムドメインのオーディオシステムに世界の音楽関係者の関心が集まった。
 無名の音響機器メーカーを一躍、有名にしたのは、「心に感動を与える音」の再生にかけてきた由井啓之社長の執念の賜だが、音の研究を続けるためのベンチャー企業、タイムドメイン立ち上げには、運命的な出会いがあった。
 1996年10月のある日。オンキヨーの研究員としてオーディオスピーカーシステム「GS-1」(グランセプター)専用のアンプ開発に取り組んでいた由井社長の研究室を、当時、ベンチャー企業家の旗手としてマスコミに話題を提供していたアスキー社長の西和彦さんが「私にも、聴かせてほしい」と訪れた。
 偶然にもその日、オンキヨーの役員会で由井社長のアンプの研究は、「製品化の具体的なメドが立たないものに投資はできない」との理由で取りやめが決定、西さんの訪問はその直後だった。
「研究は今日で最後になります」。事情を話すと、「素晴らしい音」に感動した西さんは「うちのラボ(研究所)として続けませんか。その代わり、世界最高のものをつくってください」と支援を約束した。
 「GS-1」は、84年に日本のオーディオ3大賞を独占、91年にはフランス・ジョセフ・レオン賞に日本人として初めて選ばれ、世界の注目を集めた。
 しかし、1セットが240万円。「多くの人に楽しんでもらわないと意味がない」。GS-1の能力を最大限に発揮する安価なアンプの開発が由井社長の願いだった。
 由井社長はその年の12月、思いを貫くため35年勤めたオンキヨーを退職。アスキー総合研究所(現アスキー未来研究所)のオーディオラボとして「タイムドメインオーディオリサーチ」を発足させ、翌年の97年には株式会社に組織替えをした。
 新しいオーディオ開発に睡眠時間を削ってまで没頭、4年をかけて創り上げたのが、時間をキーにした独自の「タイムドメイン理論」による「Yoshii9」である。

「Yoshii9」のミニ版も好評
 音はいくら成分を維持しても音の形はアンプやスピーカーの至るところで崩れて変化したり、欠落したりするが、これらを起こさせないように音源からの音を100%引き出し、ありのままに再現するシステムが「タイムドメイン理論」。
「Yoshii9」は2000年7月に30万円で発売。スタイルも、これまでのオーディオからは想像もつかないものだが、「何百万円もするオーディオシステムより音がよいので、価格は画期的に安い」(由井社長)とあって大反響。パリのオーディオショーに次いで昨年8月のベルリンメッセでも話題を呼んだ。
 昨年5月には「Yoshii9」のミニ版、アンプ内蔵の卵形スピーカー「TIMEDOMAIN mini」(「TDミニ」)を1万8000円で売り出した。音楽のほか、テレビやパソコンに接続すれば、ドラマや映画も臨場感豊かに雰囲気まで伝わり、音像がリアルに実在しているように聞こえる。
 いずれも直販。「Yoshii9」は、大阪と京都の百貨店の外傷でも販売しているが、基本的には「朝市精神」。自分で作ったニンジンや白菜を消費者に直接売って喜んでもらう朝市方式。特別なPRはしないのに、実演を聞いて「これが本物の音?」と、音楽に興味のない人にも歓迎され、口コミで販路が拡大している。タイムドメインを見学に訪れた人たちが「Yoshii9」と「TDミニ」を聴いて即、買って帰ったり、「毎日、感動、ありがとう」と感謝の手紙が届くこともある。

"音を担保"に研究費の融資を受ける
 いまでこそ売上げも好調に推移しているが、ここに至るまで会社は何度も倒産の危機に立たされた。アスキーが経営難に陥り、支援がとぎれてしまい、研究費が続かなくなったためだが、ピンチを救ったのは本物の「音」だった。
 「GS-1」ではなしえなかった「誰もが楽しめる」価格の試作品を作り出したが、試作品一つの制作費は百数十万円。製品として納得するものを完成させるには何十個もつくらなければならない。それに商品化のための金型費は何千万円も必要。実績のない、設立間もない会社に銀行が融資するわけがない。製品は未完成、担保もない。
 途方にくれていたとき、試作品を聴いた信用金庫の支店長が、"聴かないとわからない"と上司に進言。その結果、本部の部長、そして理事長まで「凄いですね」と感動。「応援しましょう」と融資OKが出て、研究を続けることができたという。
 20数年前、由井社長は1年半の入院生活を送った。そのとき、不安な気持ちに安らぎを与えてくれたのが音楽だった。「自分も心を和ませる音を作り出そう」。それ以来、「一つのことをしぶとく、意地になってやってきた。これがすべて。失敗しても、くじけずに。そうしたら失敗がベースになって、新たな発想がひらめくのです」。
 由井社長の願いは、「オーディオマニアでなく、音楽に関心のない人たちにも聴いてもらうこと。そして、音で感動を味わってもらうこと」である。

(奇数月第2週号連載)