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 タイムドメインは研究所創立以来、良い音を求めて研究を続けています。
 基本となる理論技術の1つは「時間領域」の考えです。
 記事は「ラジオ技術」誌84年1月臨時増刊に掲載したものです。10余年を経ていますが、周囲情勢だけを時代に合わせて読み替えていただけば、理論と技術はそのまま通用しますので、原文には手を加えず、以後の新しい資料や解説は本文中にリンクしておくことにしました。(980904)

「音楽再生のためのオーディオ技術」を考える


従来のオーディオ技術ではよい音が再生できないので
音楽を再生するためのオーディオ技術について考えてみた
ラジオ技術1984年1月臨時増刊BEST STERE0 C0MPO '84より

 多くのオーディオ人は、従来の物理特性が聴感と必ずしも一致しないことを感じていますし、確信もしています。
 たとえば、周波数特性やひずみ特性は優れていても、音の悪いスピーカは数多くあります。いっぽう、これらの特性が悪くても、音の良さで名器とされているスピーカもあります。第1図は同一メーカーの同一時代のスピーカをラジオ技術が測ったものです。
 特性からは、普及クラスの方が音が良さそうですが、音は最高級の方がずっと良いはずです。このような例は、他の機器にもいえます。特性からはほとんど差の無いはずのアンプの音の差が、意外にも大きいのも例にあげることができます。
 周波数特性や全高調波ひずみが音楽再生の十分条件でないのを知りながら、それを研究や評価のよりどころとしているのはどういうことなのでしょうか?技術者もマニアも音を聴かずに、まだ十分条件とはなっていない不完全な理論と、そのための測定器に頼るようになったのは困ったことです。

第1図 スピーカーの物理特性と音の良さ(価格)。
同一メーカーの普及機(左\39,000、と高級機(右\1,000,000)

自分の耳で音を聴いてそして自分で考えなければならないと思った
 音は専門家もアマチュアも、理論や測定が十分でないことを知っていましたので、自分の耳で聴き、自分で因果関係を考え実験して来ました。このようにして先人達はオーディオを発展させてきたのですが今はどうでしょう?
 自動測定器でスピーカの特性を測っていても、その時無響室の中で鳴っている音を聴いたことのない技術者がいます。アマチュアにとっては高価な測定器を買って、グラフィック・イコライザでメーター上の周波数特性をフラットにしたマニアがいます。本当の理論ではフラットではないし、当人が聴いても変なのですが、この人はデータを信じ、自分の耳が間違っていると思い込もうと努力しているのです。
 私たちはもう一度オーディオの原点に返って、自分の耳で音楽や音を聴くべきだと思います。先人達と異なり、ハイテク時代に生きる私たちは、技術や材料に恵まれていますので、彼等が求めて得られなかった素晴しい音を手に入れる可能性は大なのです。

当り前の話だけれど、聴くことからオーディオが始まる
 アリストテレス(B.C.384〜322)は問答集19巻の問8で「低い音の響きが高い音の響きを含んでいるのは何故か?」と問うています。また、問13では「オクターブ音程においては、低い方の音の中に高い方の音の響きが含まれているのに、高い方の音の中に低い方の音の響きが含まれていないのは何故か?」とたずねています。スペクトル・アナライザ無しで、耳で倍音の存在を知ったのです。
 セービン(1868〜1919)も、高級な測定器無しで…耳と頭脳で…残響理論を確立し、室内音響特性を初めて定量的に示しました。
発信器やアンプ、スピーカの無い時代の彼は、パイプ・オルガンの512Hzの管を音源にしました。音を止めた後、聴こえなくなってしまうまでの時間を砂時計で測って、残響時間としました。60dB減衰して聴こえなくなったので、今でも-60dBになるまでの時間を残響時間としています。実験には学校の講義室を用い、開放窓(音が返って来ないので完全吸音)1m2の吸音を吸音力の単位とし、種々の物質の吸音力を測っています。こうしてセービンが導いた実験式は今でも活用されています。

耳は先端技術もおよばない最高の音響解析システムだ
 私たちの耳は、現在の先端枝術でも解析し得ない微妙な音の差を、簡単に聴き分けています。
オーケストラの何十の楽器の1つひとつの音を評価できること、多勢の話声から1人の声を特定できることなども現代の技術ではまだできそうにないことです。これらのことから人間の耳システムはソフト、ハードとも非常に高度なものであることが理解できます。
 普通の人が聴こえるもっとも小さい0フォンの音は、3,500Hzで1.55×10-17Wになります。
この時の変位の幅は1.25×10-10cmです。これは信じられない程の量で、光の波長の約1/10万、窒素分子の直径の1/100位です。神様はあり合わせの材料で、よくこのようなシステムを造られたものだと感心します。
 オーディオは音楽を耳に伝えるためのシステムです。音楽と耳を出発点とすべきで、不完全な理論と測定で片付けてしまうべきでないと思います。

へッドホンの音とホーン・スピーカの音が次のオーディオへの手がかりとなった  数年前、オーディオの限界を探ろうとしたことがあります。当時最高と思われるシステムを求めて、メーカー、スタジオ、マニア宅と北海道から九州まで聴いて廻ったこともあります。限界がこの程度なら…、とオーディオをやる気が無くなるような結果でしたが、次のオーディオへの手掛りをつかむことができました。
 オーディオ機器の中では、取り替えた時の音の差がもっとも大きいことから系のネックは電気音響変換器であるスピーカ・システムであることが判ります。電気音響変換器もよく聴くと方式固有の性質が聴き出せます。
 ヘッドホンはダイナミック式、コンデンサ式、振動板の材料差を越えてなかなか良い音がします。このような音がスピーカから出れば素晴らしいシステムになるのに…、と思えます。耳のすぐそばで大きな音で鳴らしてもやかましくありません。室の残響の助けも無いのに(無いからこそ)豊かな原音場のホールの響きが聴こえます。
 ホーン・スピーカは、くせのある音の中に、部分的にではありますが、本当の音楽と音があるように聴きとれます。
くせを取り除ければ…、すべての部分であの素晴らしい音が聴ければ…、と思えます。
音の差に注目して変換方式の性質を調べますと、原理的にヘッドホンやホーン・スピーカは、音楽を害する高次のひずみが少ないことに気付きました。第2図と第3図で考えていただけば判ります。くわしくはラジオ技術'83年7月号よりの「高忠実度再生への新しいアプローチ」にあります。
方式により振動板の動きが異なること、したがって振動板の動きの波形と音圧の波形は異なること、これはプリエンファシス・ディエンファシスの関係にあること、ひずみは振動板の位置の関係で発生する場合が多いこと、などから考えていただければ、この説について納得いただけると思います。
 ホーン・スピーカにはこの他に過渡特性が良いという他方式にない原理的な利点もあります。今まで欠点として扱かわれていた指向性の問題も、指向性がコントロールできるという他方式にない利点として活用することができます。
ラジオ技術のバックナンバーを探していると見つかりました。'81年2月号のふく面座談会です。「今後Hi-Fi再生がますます探求されて行くとホーン型は無くなる運命かも…」などホーン型は否定されているようです。ふく面座談会をやり直してください。スーパーHi-Fiと本当の音楽にはホーン型です。ただし、今までのホール用、PA用の流用ではなく、ホーム用、Hi-Fi再生用として設計し直したとしての話です。

第2図 3種の電気音響変換方式の特性

 第3図 3つの電気音響変換方式とそのひずみ、
振動板変異ひずみが同じとしてシミュレーション

ホーン臭い音、その原因はリバーブひずみであることが判って色付けとHi-Fiの問題を考えた
 ホーンとヘッドホンの音をよく聴き較べますと、ホーンの中に残響的な響きが聴きとれます。材料を変えてホーンを作ってみますと、残響的な響きが大きく変ることから、ホーンの振動によることが判ります(第4図)。金属、木材、石それぞれの音がしますが金属グループがもっともホーン臭く、木材グループも木材の音がします。これらの振動は本来の音の後も残って響き、音を変えてしまいます。従来のひずみ(全高調波ひずみ)と同等またはそれ以上の音響エネルギーを持ちながら、正弦波では聴いても測っても判らなかったのでひずみとして扱かわれませんでした。必ずしも不快になるものではないので聴感的には色付けと名付けて別扱いされていたのでしょう。
 音楽再生においては、音楽の要素を害するものはすべてひずみとすべきです。ある音がたまたま色付けによって心良く響いたとしても、音楽の音の変化や音の差が判らなくなったり、微妙なニュアンスが判らなくなったりするものは、すべて除くべきです。  残響的な性質を持つひずみをリバーブひずみと名付けておきます。リバーブひずみはスピーカ・ボックスでも生じているはずです。従来から対策はされていますが、これをひずみと見ると大変大きなもので、全高調波ひずみの何倍もの量になります。リバーブひずみはダンピング法を工夫して大幅に低減することができました(第5図)。
 ホーンのデッドニングを工夫してみてください。箱も振動を止めるよう実験してみてください。箱をふとんで包んでリバーブひずみが放射されないようにしてみてください。新しい音が浮び出るはずです。ユニットの欠点も浮び出るかも知れませんが、それを克服すればより高い次元へ進めるはずです。

第4図 ホーンの材料と振動 第5図 スピーカー・ボックスの振動板と防振効果

ホーン開口端の低域反射によるF特あばれは問題にされ研究されているが、高域反射による色付けには注意されなかった。マルチパス・ゴーストひずみと名付けたい

   ホーンの高域は華やかにも聴こえ、きつくも聴こえます。これも正弦波では判らないので問題にされなかったのですが、ホーン内でおこっている高域の反射によるもので音楽を害します。音響レンズやセパレータや支柱、ホーンの壁面が急角度で変化する所では音波は乱れます。コヒーレントな流れにさざ波が立ってシャリシャリした音になります(第6図)。
 水が流れると考えて、波が生じないようパテなどで対策してみてください。柱やレンズははずしてみてください。音がなめらかになり、高域の音の差が良く判るはずです。サ行強調も低減します。一聴して高域が出なくなるように聴こえますが、高域はちゃんときれいに出ているのもすぐ判るでしょう。
 反対の実験をしてみても良いです。ホーンの中に波面を乱す障害物を置いてみてください。音はどう変りますか?波が乱れないようにすれば、この実験と反対の方に音は改善されるのです。ホーンの音がなぜ良いか?またなぜ悪いか?分っていただけたでしょうか?
第7図 ホーン内の温室の乱れ、斜めにしてみるとよくわかる

時間ひずみ、空間ひずみを無くすことが音楽再生の本命だがこれについて書くときりがないので2、3の例示にとどめておく
 従来の物理特性、すなわち周波数特性と高調波ひずみは時間を無視したものです。
定常的な信号ならこれで正しく再生できますが、音楽のように時間と共に変化する信号には通用しません。コーヒーを例にしましょう。砂糖、ミルク、コーヒー、水の量を正しく決めるのは成分の比率を正しくということでF持です。それぞれの成分の純度は、各周波数成分の高調波ひずみに相当します。各成分の比率、純度を正しくしてもコーヒーの味を正しく再生できるとはいえません。砂糖。ミルク、コーヒー、水を時間をずらせて与えたらどうでしょう。砂糖水、ミルクなどになってしまい本当のコーヒーは味わえません。これはひどい話ですがオーディオでは現に、これと同様なことが行われているのです。グラフィック・イコライザで成分比をどのように変えても、時間がずれていたのでは本当のコーヒーにはなりません。
 空間特性も同様です。もう判ると思いますがTVを例にしましょう。赤、緑、青の成分比が正しくとも、時間が正しくとも、各成分が正しい位置で重ならないと、正しい音像にも色にもなりません。このことから、定位が良くないと忠実再生はできないといえますし、忠実だから定位が良いともいえます。定位の悪いスピーカは、良い音楽を再生できません。

学者先生の試聴法は私たちの役には立たない。私たちは音楽を聴く耳で再生される音楽と、その要素をチェックすべきだ
 学者先生は、パネラーを何人か集めて、シェッフェの一対比較法で採点させます。ソースはそれほど高級でないプレーヤ、テープ・レコーダでダビングしたものを数秒づつ聴かせます。アンプ、スピーカ、その置き方、コード、電源の極性、等々には一般のオーディオ・マニア程の関心も持たれないようです。クラシック。ポピュラー、アナウンスと、各分野のレコードを1曲づつ使いますが、レコードの良い悪い、何がどのように演奏されているかは余り問題にされません。高い−低い、澄んだ−濁った、明るい−暗い、などの評価語で5段階尺度です。コンピュータでデータを処理して有意度や信頼区間を決めて結論が出されます。
 ちょっと茶化して書き過ぎたかも知れませんが、これが正しいと言われている音質評価法です。
 私たちはウイスキーのブレンダーや、香水のブレンダーのように、身近では自分が自分の料理の味見をするようにすべきだと思います。目的にあわせて十分吟味された装置で必然的なソースを聴くべきでしょう。たとえばヴァイオリンがストラディバリウスらしく鳴っているか?弾き手の素晴らしさがちゃんと判るか?スピカートのはずが、連って聴こえ気味だがこれで良いのか?音程が変って音色が変るが、この音は変るのが本当か変らないのが本当か?などなどです。
 プレーヤを工夫したところ、先日まで金属弦のように鳴っていたチェンバロが、ガット弦らしく鳴るようになりました。このレコードは弦を皮の爪で弾いているのですが、プラスチックの爪との区別もつくようになりました。
 学者先生の方法では、ワインの産地と年代を知ることはできないでしょう。でもオーディオ・マニア、ワイン・マニアにはできるのです。
 先日、ザ・シンフォニーホールでチョン・キョンファのすごい無伴奏パルティータを聴いて確信しました。
 グラフィック・イコライザをどのように調整してもこの音は再生できません。時間的フィディリティを、過渡特性を良くすることが真の音楽再生への道です。隣の席と私の席ではガルネリウスからの伝達関数は違います。当然のこととして私は何の補正もしないで聴いていましたが、同じ音で同じ音楽が聴こえました。f特屋さん説明してください!

[参考書](1)「音楽の物理学」音楽をする人たちのための入門書。アレクサンダー・ウッド著 J.M.パウジャー改訂 石井信生訳
(2)「音響工学」伊藤毅著
アリストテレスと耳の感度は(1)、セービンは(2)を参考にさせていただきました。

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