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 タイムドメインは研究所創立以来、良い音を求めて研究を続けています。
 基本となる理論技術の1つは「時間領域」の考えです。
 記事は「ラジオ技術」誌84年7月臨時増刊に掲載したものです。10余年を経ていますが、周囲情勢だけを時代に合わせて読み替えていただけば、理論と技術はそのまま通用しますので、原文には手を加えず、以後の新しい資料や解説は本文中にリンクしておくことにしました。(980904)

音楽を再生するためのHi-Fiオーディオ


オーディオの原点、音を聴くことについて
全域抵抗制御をねらった新しいウーファーの提案
ラジオ技術1984年7月臨時増刊BEST STERE0 C0MPO '85より

 オーディオ界の低調はいまや久しくなりましたが、最近、ラジオ技術社の努力等により、一部の心ある人達から議論が始まる等、新しいオーディオの動きが予感され、喜んでおります。いまから20年以上前、いまはオーディオ界の重鎮となっておられる人達が、ハンダごてを持ち、夢中でレコードを聴かれたような、真面目にオーディオの喜びを追求する時代が、ふたたび、早く来てほしいと思います。

本当に良い音とは
 本当に良い音でないと音楽はわからないし、感動しません。音楽家なら、音は無くとも楽譜を読むだけで感動できますが、素人は本当の良い音を聴かないと感動できません。
 初めてウィーンの楽友協会ホールでウィーン・フィルを聴いた時、音の素晴らしさにショックを受けました。これならどんな人でも感動します。さらにその後、音楽に興味の無い人々を、このホールや別の素晴らしいホールに案内して、音楽の素晴らしさを知ってもらいました。
 ブルノ・ワルターはこのホールの音について、「ここで初めて指揮するまで音楽がかくも美しいものであり得ることを考えてもみなかった」といっています。このことからも本当の音楽の素晴らしさを知っている人はまれだ、といえます。(注1〜2参照)
 日本では良いホールが無いのでこのような音は聴けません。最近になって日本にも音楽専門のホールが造られ始めましたが、本物の音楽が聴けるホールの誕生までは、まだ少なくとも10年、20年は待たなければならないでしょう。残響時間が何秒だから……といっている間はとても望みはありません。また、仮に、楽友協会ホールと同じ音のホールができたとしても、本場所と地方巡業の差で同じウィーン・フィルが演奏しても、音楽には大きな差があると思います。
 いま、私はオーディオにより、音楽の感動を求めようとしています。なぜならば、レコードには我々が思っている以上に素晴らしい音と音楽が入っていると思われますし、日本のホール設計の技術よりも、レコーディング技術の進歩の方が早いのではないかと思うからです。
 また、従来の技術の踏襲ではいけませんが、音楽再生を真剣に考えれば、オーディオで本当の音楽が再生出来るようになる、と確信します。(注3参照)

色づけでない高忠実度再生で
 安物のヴァイオリンが、心良く上等に聴こえるシステムがあったとします。本当にそうなら、これも一つの良い再生システムといえます。意識的または無意識的な色づけによる音楽再生ですが、安物のヴァイオリンと上等のヴァイオリンの区別がつかない、ということにもなり、本物の音楽は再生できないといえます。
 このことから、本物の音楽を再生するためのオーディオ・システムは、色づけ路線ではなく、Hi-Fi路線をとるべきだということがわかります。物理特注が良くても音楽は再生できない、といわれていますが、これは音楽再生と関係ない物理特性を吟味しているからです。音楽再生のために必要な物理特性を主とした新しい高忠実度再生技術が、第二のHi-Fi時代をスタートさせるのではないかと思います(第1図)。

第1図 忠実度再生と色づけ

全面的な試聴ができないと良い音楽は再生できない
 新しい忠実度再生技術でシステムを開発するにしても、現在の自分のシステムを音楽再生用に改造したり、整備したりするにしても、音楽再生を望むからには試聴は重要な手段です。試聴については従来から種々な方法がおこなわれれ、また最近、本誌上でも活発な議論がおこなわれています(注4参照)。
 どれが正しいというのではなく、種々の目的に応じて多くの流儀があって良いのですが、ここでは本誌で最近気になった意見を基に、私の考えを2、3書かせていただきます。

アンプの音の差について
 アンプの音の差はほとんどない、という意見を聞きます。そうだともいえますし、そうでないともいえます。これはその人の目標によるのではないかと思います。オーディオを実用品と考えるなら差はそれほど無いと考えて良いでしょう。オーディオを心の領域にかかわるものとして、Hi-Fiによる音楽再生をいうなら差は大きいし、もっと良いアンプがほしいのです。現実に聴いて差はない、という意見も見受けますが、もしそうならアンプ以外の機器の質が低いからだと思います。
 私も、10年以上も前、システムの質が低いころ、カートリッジの音の差さえわかりませんでした。自分の聴く能力が低いからわからないのだと思っていました。またわからなければべつに高級な物は不要だとも思っていました。でもいまの私のシステムでなら、まったくの素人でもカートリッジの音の差ははっきりわかります。少しオーディオをやった人なら、たいていのアンプの差もわかります。わかればやはりどうしても良い方にしたいと思うほどの差です。

ブラインド・テストについて
 合理的なテスト法のように見えますが、良く考えるとオーディオの研究には余り適さないように思われますのでこれにこだわることはないでしょう。アンプ以外に目隠しできるコンポーネントはないでしょうし、音や、音以外の要素でかならず目印がついてしまいます。アンプの場合もすべてにまったく同じアンプはないので、かならず目印がつきます。オーディオに関してブラインド法は不可能ですし、必要性もないと思います。
 スピーカを2つ切替えれば音の聴こえる方向は異なりますから、目隠しする意味はないでしょう。またスピーカはそれぞれベストのセッティングをして、ということであれば瞬時切替えなどはできません。
 また一例をあげればまったく大きさも音の質も異なるスピーカについて、コントラバスのピチカットはどちらがそれらしいか?音程の変化はどちらが良くわかるか?などの試聴を重ねて良否の判断をしています。このような試聴において、ブラインドであることに意味があるでしょうか?また音量を合わせる議論については、何の音量を合わせれば良いのでしょう。音量を含む種々の条件や、ソースなどを変えて、自分の目的を達するまで種々の条件で試聴するのが良いと思います。アンプについても程度の差こそあれれ上記例と同じだと思います。

試聴には時間が必要
 音が良いはずのスピーカ・ユニットを作り上げて試聴したとき、改善前のユニットに較べて音がきたなく聴こえ、とまどったことがあります。ユニットの諸ひずみ(第2図)が少なくなり分解能が向上した結果アンプ系のひずみがもろに聴きとれ、きたなく聴こえたのです。アンプを良いのに換えると評価が逆転したのはいうまでもありません。瞬時切替え目隠しテストでは誤まったままだったかも知れません。
 人間のパターン認識能力に学習効果があることは良く知られています(注5参照)。ビートルズの歌詞を初めて聴いた時は何を言ってるのかさっぱりわかりませんでしたが、何回も聴いたいまははっきりわかるのはもちろん、口の形、表情までわかるように思えます。
 また、週刊誌のクイズ等で2つの絵のどこが違うか?というのでも最初はちょっとわかりません。でも時間をかければわかります。一度わかれば大きな差であることがわかります。
 アンプの試聴でも同様です。ちょっと聴きには差がなくとも、手元においてずっと聴いていると差がわかるようになります。わかるだけでなく、音楽にとってどちらでも良いとはいえないほどの大きな差であったこともわかります。

第2図 ステレオ再生におけるひずみ(主としてスピーカー・システム)

小さな差も大切にしたい
 アンプの小さな差を、良い方に選べば、スピーカ・コードの差がわかるようになります。スピーカ・コードの小さな差を良い方に選べば、ピン・コードの差が…、そしてまた、アンプの差がわかると同じように、小さなコンポーネントの差を重ねて行くと、システムの忠実度が向上し、システムの忠実度が向上すると、コンポーネントの差がまた良くわかるようになる、と小さな差の積み重ねで大きな差を生み出して行くのてす。どちらでも良い、では、いつまで経っても素晴らしい音楽を得ることはできません。

色づけでなく忠実度で
 コンポーネントの取捨は、ばく然とした好き嫌いではなく、忠実度の向上する方向に、良い悪いを基準におこなう必要があります。音色の違いが良くわかる方、奏法の違いが良くわかる方が、忠実度の高い方です。この積み重ねは音楽再生へつながり、あなたの好ましい音へとつながります。
再生音が原音と違うと思われるときは、原因を考え、もとの音楽を害している要素を探り出さないといけません。原因を探らず色づけで音楽を求めて行くと、とんでもないシステムになってしまいます。
 伴奏のためふたをして演奏しているのを知らず、この音をオープンに響くごとく色づけたシステムに仕上げた人がいます。色づけによると大なり小なりこのような誤りをしますので多くのソースを聴くことも必要です。また頻繁に自分の好きな音楽を種々のシステムでも聴き、自分のシステムで何百回も聴いたリファレンスをもつことも必要でしょう。けっきょくオーディオは好きと、時間と、努力です。
 きりがありませんので筆を置きますが、いいたいことの中心部は申し上げたつもりです。またの機会にもっとくわしい話もさせていただきたいと思います。

注:参考文献
1。『オーディオ入門者には良い装置を』“私のリスニングルーム第242回”('81年9月)
2。『冬のヨーロッパ音を求めてパリ・ミラノ・ウィーン』“ステレオ芸術”('81年12月臨増)
3。『高忠実度再生への新しいアプローチ』
「物理特性はなぜ聴感と合わないか」“ラジオ技術”('83年7月)
「時間の窓で切りとってみると位相差が問題になる」('83年8月)
「全域抵抗制御をねらった新しいウーハーの堤案」('83年9月)
「ステレオ再生における空間ひずみとは」('83年10月)
4『従来のオーディオ技術では良い音楽が再生出来ないので音楽を再生するためのオーディオ技術について考えてみた』“ラジオ技術”('84年新年臨増)
5『パターン認識と神経回路』福島邦彦“NHK技研月報”(22巻8号)

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