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「ステレオ芸術」82年12月臨時増刊号

 冬のヨーロッパ  

 音を求めて(2)

 パリ→ミラノ→ウイーン

由井啓之 


MlRAN

 ヨーロッパの音との初めての出合いとなったパリ・オペラ座の夜は、あの音、この音と初めて経験する響きにおどろいている間に過ぎてしまいました。もう一度、それぞれの音がどうだったか確認したい、との思いが残りますが、翌日はミラノ・スカラ座のスケジュールが待っています。

●オペラ総本山 ミラノ・スカラ座

 「オペラ座は『優〜秀』ではあるがミラノ程ではない」のオペラ座であの感激ですからスカラ座の音はさぞや、と期待させられます。その上スカラ座はオペラの総本山です。「オテロ」、「ファルスタッフ」、「蝶々夫人」、「トゥーランドット」を始め多くの名曲が初演され、ヴェルディ、ロッシーニ、プッチーニ等の作曲家トスカニーニ、カラヤン等の指揮者、カルーソー、カラス等の歌手もここで登場し、名声を博したのです。
 又、日本にも同名の劇場や音楽喫茶が多くありますが、その元祖総本家でもあるわけです。

天井桟敷から見たスカラ座舞台

●音は明瞭で、あたたかく奉やか

 ミラノヘ出発の朝パリは大変な霧で欠航続出、便を求めてオルリー空港とドゴール空港を行ったり来たりして、スカラ座の開演の2時半を過ぎてやっと出発スカラ座が駄目なら何のためのミラノ行きかとなさけない思いをしたものです。ミラノ空港の通関が終わったのが4時半、5分でも良いからスカラ座の音を聞きたいと直行しました。入口受付を閉じているスカラ座に着いたのが5時、遠く日本から来たのだからと頼み込んだところ、天井桟敷ならと案内していただきました。こうして30分以上も観賞出来たのは、あきらめていただけに幸運としか言いようがありません。
 天井桟敷はリンクの7階で、前に5列程座席があり、その後に二、三重に立見の客がいます。頭の間から舞台の一部がやっと見える状態なのに、その音の素晴らしいのには篤きました。弦の音が何とも魅力的です。やわらかく、豊かに、はっきり聞えます。天井の奥桟敷に居るのに全ての音が大きく、はっきりと直ぐ近くに聞えるのはどういうことなのでしょうか? 中低音の音も豊かです。カートリッジの音に譬えれば、オペラ座がシュアーとすれば、スカラ座はオルトフォンやEMTの感じです。例のベラネク氏によると、「音は明瞭であり、暖かく、華やか(brilliant)である」とありますが、天井の奥でこの音が聴けるのは不思議としか言いようがありません。
 暑くて息苦しい天井桟敷で、若い人達が身じろぎもせず、息をつめて舞台に視、聴き入っているのにも感心しました。演目はプロコフィエフのバレエ「ロミオとジュリエット」ですが、この物語は彼等にとっては、我々にとっての忠臣蔵以上に親しいものかも知れません。ここの観客の音楽レベルの高さは有名で、気に入らない演奏に対する不満のブーブーに泣かされた歌手は多いとのことです。幸いこの日の演奏は素晴しく、ブラボー(イタリー語だからこれが本物)の掛け声と花束が舞台へ飛び、拍手と足を踏み鳴らす音と熱狂のうちに終りました。
 明るくなって眺めると、ここもオペラ座に負けず豪華絢燗です。7層のリンクは全て金色まばゆい装飾がほどこされ、客席の真紅とのコントラストが一層豪華さを加えているようです。客の華やかさもさすがはイタリアンファッションの中心ミラノで、パリには負けていないようです。ただロビーの広さは日本並でオペラ座にはかないません。客席の広さはオペラ座と同じ位ですが、リンクが二階多い分だけ天井が高く収容人員も多いようでした。

●休演中の舞台で実験

 翌日、スカラ座は休演ですが、ホールをもう一度見たいので出かけました。整備のため照明されている舞台に登らせていただいていくつかの大きな差が判りました。
 大阪フェスティバルホールで休演の舞台に立たせてもらっても、この席一杯に観客が埋ったらと思うと歌手達の晴やかな興奮を実感出来ますが、ここはその比ではありません。シャンデリアに輝く7層のリンクと真紅の客席だけでも相当の作用です。これが華やかに装った紳士淑女で満たされると大きな力が演奏者に作用するはずです。場所や観客が良い音楽を創る、この働きは本場にはかなわないと痛感しました。手を叩いたり声を出してみると、音の返りが日本のホールと全く違います。リンクの腰板が開口部以上の面積を持っていますので、日本なら客席へすっかり吸い込まれてしまうはずの音がここでは良く返って来ます。これは良い響きの原因の一つでしょうし、明瞭な返りは演奏をし易くしていると思われました。
 スカラ座の中には「オペラ博物館」があり、有名音楽家の遺品や楽器、楽譜、舞台衣装が多くの立派な部屋に展示されています。この国の人が音楽や音楽家を如何に大切にしているか良く分りました。

リストのピアノ(スカラ座オペラ博物館)

●理解を超える「西欧」

 ダ・ビンチと弟子達の像が立つオペラ広場から、ガラス張りの高い天井と大理石のモザイク舗道がイタリアらしさを感じさせるヴィットリオ・エマニエル2世・アーケードを抜けると、ドゥオモ広場に出ます。ノートルダム大聖堂のオルガンに味をしめてドゥオモ大伽藍のオルガンをと思って訪ねたのですが、これはドウオモ当て外れだったようです。小型のオルガンが置いてありましたが、これじゃ鳴っても大したことはなさそうです。何せドゥオモの大きいことノートルダム以上です。伽藍の奥行148m、幅91m、高さ56m、尖塔は108mというのですが、これはとてつもなくでかいホールです。400年もかけて石を横み上げてこの様なものを造ろうという人達、日本人にはない何かが彼等にあり、根本的には理解し切れないものがあるのではないか。音楽についてもこの様なものがあるのではないだろうか、等いろいろ考えさせられる1日でした。

ドゥオモ大伽藍


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